映画に登場するがん患者たち

ドキュメンタリー映画『THE FOOD CURE』の主人公の一人、マリーに初めて会ったのは、メキシコにあるゲルソンクリニックの中庭でした。前に一度だけ電話で話したことがあって、彼女は満面の笑顔で私を出迎えてくれました。

 

私はいかにも「病人」らしい風貌を想像していたのですが、彼女が完璧な健康人に見えたので驚きました。マリーは、クリニックでの滞在治療を助けるために一緒に来ていた義理の姉妹を紹介してくれ、クリニックにある小さな無塩素プールに連れて行ってくれました。

 

私にとって、その日はただ訳がわからない1日でした。想像していたのと雰囲氣も、患者たちの様子も、まったく違ったからです。サボテン、噴水、少し歩けばビーチがあるという、簡素で清潔なメキシコのホテルのようでした。海ではイルカの群れがブリーチングをしていました。

 

生命を感じられない一般的ながん病棟とは対照的に、患者たちが周辺を散歩している様子はバケーションやリトリートにでも来ているようでした。

 

実際は、そのほとんどが末期がんの患者たちだったので驚きました。「彼らは自分たちの置かれている危機的状況を受け入れられないのだろうか?」

 

私のこの疑問への答えを昼食のテーブルで得ることができました。患者とその付き添いたち(各患者は、クリニックでの滞在治療を手伝う友人や家族、通訳などを伴って来ている)は全員が長いテーブルに着席していました。皆、自由に自分のがんの種類について話したり、冗談を言い合っています。

 

とてもそのようには見えなかったのですが、

彼らの多くはすでに

何年も通常療法の治療を受けた経験があり、

最後のチャンスをかけて

この場所へ来ることを決断していました。

 

たくさんの料理が並ぶ色鮮やかなビュッフェに、彼らが繰り返し行き来するのには驚きました ー まずスープ、そしてサラダ、焼き野菜に、デザートまで。がん治療に伴う食欲減退という問題は、ここには無さそうでした。一目見て、この栄養療法に断食は関係が無さそうだということもわかりました。

 

この日の午後、私はビーチにあるココナッツの売店でマリーにインタビューをしました。彼女のその健康そうな見かけとは裏腹に、じつは、44歳で4人の子を育てながら整骨医を営む彼女は2種類の異なるがんを診断されていました、その一つはトリプルネガティブタイプの進行性乳がんでした。ここに来る数週間前が人生で最悪の時だったと話してくれました。通常療法の主治医が彼女に激しい抗がん剤治療をすすめ、その副作用についてはネット検索で調べるな、と言ったのです。

 

「良い患者」でいるために主治医の言いつけを守ろうとしましたが、ついに、彼女は抗がん剤について調べ始めました。低い治癒率、大事な器官へのダメージ、その抗がん剤治療は彼女にとって衝撃的でした。メリットとデメリットを秤にかけ答えが出ない苦悩の夜を何日も過ごし、彼女は抗がん剤治療の予約をキャンセルして代わりにゲルソン療法をすることに決めました。身体に備わった免疫系を強化してがん細胞と闘うという原理が、彼女にとっては理に叶ったものと思えました。

 

それで、彼女はここへやって来ました。ここに来ることを決めて深い安堵を感じられたのが良かった、自分の身体と命を取り戻してもらったかのようだったと話しました。

 

その後の3年間も、ずっと同じように感じていたわけではありませんでした。私は定期的にマリーをモントリオールの自宅に訪ね、残りの厳しい治療期間を過ごす彼女と家族の様子を撮影しました。

 

この期間、彼女は大好きなことのほとんどを取り上げられたような気分で過ごしていました。旅行、友達とお茶すること、夫とディナーに出かけること、ワインを飲みながら映画を見ること ー 日々の楽しみを与えてくれたものがすべて無くなりました。孤独になりました。まるで自宅で投獄されているような気分でした。

 

自分の健康を

「自分の手中に取り戻す」ことが、

簡単な問題でないとがわかりました。

 

メキシコのクリニックではスタッフが毎時間ジュースを運んで来てくれましたが、のんびり過ごした日々はもう遠い記憶でした。

 

ジュース、浣腸、ゲルソン食を準備する傍ら、4人の子どもの世話と仕事を両立するなんて、非常に協力的な夫がいても乗り越えられないタスクでした。

 

私は3年の間に、マリーに、そして映画に記録することを承諾してくれた他の患者たちに対しても、深い敬意を抱くようになりました。通常医学に背を向けホリスティックな治療を選んだことが「正しい」か「正しくない」かに関係なく、その決断を下したことが孤高の勇気だと思いました。

 

命に関わる事態が差し迫ったときの、主治医からの推奨、心のこもった友人たちのアドバイス、家族からの懇願、それらに逆らうのは簡単ではありません。また、社会生活の多くの場面には食事と飲み物がつきものですから、社会活動から疎外されるような感じがしてその期間が長くなるほど苦しみます。

 

私たちの世界が

この治療を選択する人にとって

住みにくい限り、

この治療を選ぶ人は特別な人、

強い人に違いありません。

 

続く数週間で、私は映画の主人公になる他の患者たちと会いました。

 

  • フレッド:カナダ人のトラック運転手で石工、前立腺がん・精管と骨に転移。
  • ヴェレナ:スイスの小さな町に在住、手術はしたが、処方された抗がん剤・放射線治療・ホルモン療法は辞退。
  • ジェレミア:いちばんかわいい主人公、生後6ヶ月で珍しい種類の悪性リンパ腫を診断される。
  • ミシェル:ミシシッピ州在住、ステージⅠの乳がんを診断され、あらゆる通常療法を辞退。
  • クリスティーン:フランスの田舎町在住、4回の抗がん剤治療にもかかわらず治療に失敗、ゲルソン療法を試みることに。

 

この数年の間、私が撮影している映画について話を聞いた人は皆「それは、とんでもなく辛いテーマだね」と哀れむような目で言いました。「そんな悲しい問題に長い間取り組んで、どうやって乗り越えるんだい? その患者たちは元気なのかい?」

 

こうした言葉にどのように答えれば良いか、私はわかりませんでした。なぜなら、とくに悲しくもなく、非常に辛いわけでもなかったからです。胸をえぐられるような瞬間もありましたし、この映画の撮影が簡単だったわけではありません。でも、主人公たちは皆、素晴らしいユーモアのセンスを持ち合わせた人ばかりでした。

 

彼らは強く、美しく、面白い人たちでした。私は、自分が、がんや死についての映画を作っているとは一度も感じませんでした。私は、主人公たちとともに、ジュースが吹き出たジューサー、家族、主治医の検査、友人たちとの笑顔、子供たちの教育、調理された美しい食事、命との戦いをフィルムに収めただけでした。

 

患者たちは、私たちが日々行う選択について多くを教えてくれました。私が自分の映画製作に迷った時、この仕事を続けるよう後押ししてくれたのが彼らでした。行く道になんらかの障壁が現れても、彼らが毎日直面していた困難に比べればたいした問題ではありませんでした。私がこの映画製作について心配したことは、最初の段階で解決されていました。彼らには、語るに値するストーリーがたくさんありました。

 

私たちの誰もが間違いなく影響を受けるストーリー、食卓に上る食事からがん治療、現代医学の病気治療まで、あらゆるものの見方が変わるようなストーリーです。

 

私は彼らのストーリーを皆さんに届けられることを誇りに思っています。

『THE FOOD CURE』予告編(オリジナル英語版)

「がんは世界中で増えています」

「美しい赤ちゃんを授かったのに半年後にがんを診断されました。どん底に突き落とされました」

「乳がん、トリプルネガティブ、グレードⅢと診断されました。私がいなくなったら誰が子どもたちを育てるのでしょう」

「生存率がものすごく低いことがわかりました。本当に恐ろしかったです」

「いったい何が足りないのでしょう?」

「医薬品はまだ開発の途上にあります」

「抗がん剤、放射線…。わたしのなかの何かが “それじゃない” と言いました」

「じつは、私たちが知らないだけで、治癒はすぐそこにあるのでしょうか?」

「代替療法を探し始めました。自然な方法を使う治療を」

「いろいろ探してみて、希望の光が見えてきました」

「栄養療法です。あなたはあなたが食べたものでできているのですから」

「悪い食べ物が問題を引き起こし、良い食べ物はその問題を体から追い出します」

「30%のチャンスしかないと言われ悩みましたが、何か別のことをしなければならないと思いました」

「私たちはこの戦いへの準備ができているでしょうか?」

「親は子どものことを第一に思って道を決めますが、その選択が親としての法的責任を問われることもあります」

「これは2年間に及ぶ治療プログラムです」

「医療保険が使えません」

「療法を始めて2ヶ月で、離婚を考えました」

「何かをたたき壊してやりたい気持ちになりました」

「6人の患者たち」

「1つの究極の選択」

「がんとの戦いに勝ちたいならすでに勝った患者を研究するべきです」

「THE FOOD CURE」

https://www.thefoodcurefilm.com

The Food Cureは、長編ドキュメンタリーです。ゲルソン療法をおこなうという究極の選択を決断した6名のごく普通の人々を追ったストーリーです。The Food Cureは、がんの代替療法の世界を患者の至近距離から記録したもので、食事、健康、これからのがん治療に対して大局からも考えさせられる稀な作品です。現在、日本語字幕版が制作途中です。

 

サラ・マブローク監督は映像とジャーナリズムの修士号を持ち、中東地域を取材するリポーター兼カメラマンとして、写真、ラジオ、TVニュース(AP通信、BBC、CNN、ABC、NBC、FRANCE24、Eenvandag、ZDF)などで活躍してきました。THE FOOD CUREは、彼女にとって初の長編ドキュメンタリー作品です。

コピーライト:ゲルソン・インスティテュート

著者:サラ・マブローク

日本語訳:ゲルソン・アンバサダー、氏家京子

 

原文掲載URL:https://gerson.org/gerpress/six-courageous-cancer-patients-one-radical-choice/